夢も希望も無い。
彼女は短大を卒業して新卒入社したけれど、馴染めず直ぐに止めた。
その後は派遣で食いつないでいたが、将来の展望なんて無い。それどころか雇止めで失業してしまった。
突然白馬の王子様が現れて連れ去ってくれないかな、なんてバカなことを考えてた。
そんな彼女の前に現れたのは、赤とシルバーのモンキーに乗った、極彩色のファンキー野郎だった。

著者:あおいしか
12/11不思議の国ニッポンに生まれ、平和ボケして何となく生きてきて、バイク復帰も運命で決められていたとしか思えない今日この頃。
愛車のナンバーは3830。わかる人にはわかる数字。これからも平和ボケで生きていきたいです。
ファンキー野郎は小さなバイクに乗ってやってきた

ファンキー野郎は、テッテレーという効果音が聞こえるような様子で軽快に走ってきた。公園のベンチでおむすびを食べている彼女の前に来て、急に止まった。ちなみに、公園内はバイク立ち入りは禁止だ。
前を向いたままエンジンを切ると、しばらくそのまま静止した。すると、小鳥が2羽やってきて、1羽はシルバーの半キヤップの上に止まった。もう1羽は、ハンドルに止まって首を振りながらファンキー野郎の顔を見ている。
ファンキー野郎は、不意に彼女を見て言った。
美味しそうだねん、おむすび。どこの米なん?
宮城県産ひとめぼれ

え?
彼女は呆気にとられながら、とっさにおむすびのビニールに貼られたシールを見た。
こ、国産て書いてます。
表側に書いてない?
え?あ、宮城県産ひとめぼれ、って書いてます。
うん、美味いよね、その米。
ファンキー野郎は、若い兄ちゃんにも見えたけど、おじいちゃんにも見える。中間を取って、おっさん?にも見える。カラフルなフレームに黒いレンズのサングラスをしている。
おねえさん、なまえ、なんてーの?
え、あたしですか?あ、あたしは、サツキって言います。
ふ~ん、5月生まれなん?
あ、まあ、そうです。
じゃあ、いままさにお誕生月ってとこ?
え、まあ、そんなとこです。実は、今日なんですけどね。へへ。
ほっほー!それはめでたい!じゃあ、なんかお祝いしないとねぇ。うーん、何がいいかなぁ。
え、別にいいです。欲しいものとか特に無いので。
じゃあ、この子とかどお?
モンキー野郎は、ハンドルに止まってる小鳥を指差して言った。
え、でも、その子は野鳥ですよね?もらうって言っても・・・困ります。
ダイジョブ。この子は勝手に付いてくるから。
小鳥の道案内

え?
それから、その小鳥は彼女が外に出ると、チラチラと姿を現すようになった。ソトメシ中や、どこかで一休みしていると、いつの間にか近くにいる。時にはファンキー野郎の時のように、頭や手に乗ってくることもある。
そんな日々が普通になった頃、小鳥が何処かへ導いているように感じることに気がついた。歩くとその方向の道の上に降り立って、また先へ行くと同じように道に降り立つ。
その繰り返しで行き着いた先には、小さなバイク屋があった。店先に、何台か錆びついたモンキーが並んでいる。かなり古そうなものもある。
あ、おねえさん、やっと来たね〜。
モンキー

あ!
店から出てきたのは、あのファンキーモンキー野郎だった。今日も極彩色な出で立ちだ。
さあ、さあ、ちょっと来てみて。
工具が散らばる、きれいとは言えない店の中に入ると、ピカピカのモンキーがぎっしり並んでいる。
ねえ、バイク乗らな〜い?バイクはいいよー。乗るなら安くしとくからさあ。この子たちモンキーっていうの。可愛いでしょん?
え?あたし、失業中だし、お金ぜんぜん無いです。それに、バイク乗る気ないので。
モンキーってちっこいけど、高いんだよね。マニアもいるし。よく売れるのよん。
モンキーは、空冷4ストローク、HONDAのロングセラーバイクだ。公式サイトでは、遊園地から生まれた遊び心にあふれたレジャーモデルと紹介されている。コンパクトでシンプルな車体と愛らしいデザインが特徴。
人生キラキラするよん!バイク乗ったほうがぜーったい、いいから。
人生キラキラ、ですか・・・
モンキー店主の言葉に、ほんのちょっと心が動いたけど、彼女はまったく乗りたいとは思わなかった。
かみさまのばいくや

新緑がモリモリと茂り始めるころ、サツキはまだ無職だ。働く気持ちになれなかった。
特にすることもないので、散歩ばかりしていた。外にいるのが好きなのだ。そのおかげか、世間は5月病の話題がもちきりでも、サツキには関係のない話だった。
ファンキー野郎がプレゼントしてくれた小鳥は、相変わらず散歩のたびに付いて来る。特に行きたい場所がないときは、小鳥の導くほうへ歩いてみる。
そうすると、なぜか行く先にはバイク屋がある。そのたびに、店先に並ぶバイクを見るともなく見て通り過ぎる。
これは、小鳥がまたファンキー野郎のバイク屋へ行けと言ってるのかな?
ある雨上がりの金曜日、ケヤキ並木が雨のしずくでキラキラしている。その道を、モンキーのバイク屋へ向かった。
バイク屋に着いて、日差しが眩しいなと視線を上げたところに小さな看板があった。
「かみさまのばいくや」と書いてあった。
神さまはモンキーに乗ってやってきた

ウケるー
彼女は笑った。
予期していたかのように、ファンキー野郎店長が出てきた。
バイク、乗る気になった?
いえ、べつに。小鳥がここに連れてきたかったみたいで。
バイク乗ったほうがぜーったいいいよん。
ファンキー野郎は、相変わらず同じことしか言わない。
それから半年。何とかバイトを見つけて働き始めた。休みの日には、小鳥と散歩。相変わらず、小鳥に付いていくとバイク屋に着く。
白馬の王子様は現れそうに無い。
仕方ない、モンキーに乗った神さまを信じてみるか。
次の春、サツキはヘルメットを買った。
まんまと神さまのワナにハマったらしい。
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