私はミコ。バイクには全く興味が無かった。どころか、過保護なばあちゃん子だったから、自転車には乗せてもらえなかった。危ないからという理由で。
どちらかといえば反抗的な子供だった私は、誰が何と言おうと乗りたければ乗っていたはずだ。単に興味が無かったのだろう。
就職して1週間で退職してから、フリーターとしてブラブラしていた。というか、そもそも就職する気は全くなかった。
ヒマだから、ミコとマコと初代ヤマハTWの話をしよう。
『ミコとマコ』この名前に聞き憶えがあるのなら、ヤマハTWを『ティダブリュー』なんて呼ばないですよね。
ミコとマコと初代ヤマハTW200(ティーダブ)

ある日。隣の小さな自転車屋の前に、1台のバイクが止まっていた。その家にはタメの幼なじみがいた。名前はマコ。不愛想な男の子だった。
ミコとマコ。幼い頃、話題になっていたテレビドラマの主人公の名前と同じだ。
同世代なら「マコ 甘えてばかりでごめんね ミコはとっても幸せなの」という歌を聞いた覚えがあるだろう。
小学校前までは、毎日朝から晩まで一緒にいるほど、それはもう仲良しだった。『ミコとマコ』と囃し立てられることもあったが気にせずよく遊んでいた。
しかし、その後はパタリと遊ばなくなっていた。
初代ヤマハTW200(ティーダブ)との出会い

夢も希望もない、が口癖になっていた20代半ば頃、マコの店の前に止まっていた1台のバイクを見た。大きめの文字でTWと書いてある。
かなり長い間、棒立ちになってじっとそのバイクを見ていた。自転車もバイクも全く興味がなかったはずなのに。バイクの後ろには大きな箱が乗っていた。
店の中から、ヘルメットを持ったマコが出てきた。まともに会ったのは何年ぶりだろう。隣に住んでいても、ほとんど顔を合わせることはなかった。
戸惑いながら、こんにちはと言った。マコもちょっと気まずそうに、あ、こんにちは、と言った。
え、バイク乗るの?それ、マコのバイク?
あ、そう、俺の。
ふーん、そうなんだ。
じゃあ、俺行くね。
どこ行くの?
あ、バイク便のバイト。
マコは手際よくエンジンをかけると、勢いよく走り去った。
YAMAHA TW200(ティーダブ)への興味

バイク便?何それ?
スマホやパソコンの無い時代、本屋へ行ってバイク雑誌を片っ端からめくってみた。
読者コーナーを見ると、ツーリングの報告、友達やバイト募集などの記事が目についた。その中にバイク便の文字を見つけた。
急ぎの書類などをその日のうちに届ける仕事。バイク好きにはやりがいのある仕事です、と書いてあった。
次に、YAMAHA TWというバイクの記事を探した。ある雑紙のトップページに掲載されていた。
1987年3月7日、冒険家の風間深志が、販売間近のTW200で、史上初の北極点への挑戦をするという記事だった。
バイクって北極にも行けちゃうの?
『ティダブリュー』じゃなくて、『ティーダブ』っていうのか。なんかいい感じ。
衝撃を受けた私は、棚にあるバイク雑誌をすべて見てみることにした。その中の1冊のカラーページに、三好礼子の写真があった。なんてカッコよくて素敵なんだろう。
さらにページをめくっていくと、バトルスーツなるものを身に着けた佐藤信哉の写真があった。カツコいい。他のページをめくって記事を読んだ。最後に編集長のコーナーを読んだ。すごくいいことを言っていた。しばらくのめり込むように、ほぼ全ページめくって飛ばし読みした。
本屋の主人の視線はシカトした
バイク乗りへの道

翌月から、その雑誌を買うようになった。ほぼ同時に、自転車の練習を始めた。自転車でも、バイクの気分が分かるような気がしたからだ。
年齢的に自転車の練習は恥ずかしかったが、それ以上に乗りたい気持ちが勝っていた。それから一年、弟の古い自転車を借りて毎日バイトに通った。
自転車で風を切って走る爽快感はたまらなく気持ちが良かった。交通費もかからず、少し遠くまで行くこともできる。頑張れば海へでも行ける。
その1年後、貯めたバイト代で二輪教習の申し込みに行った。
三好礼子の写真を見て、それは決定的となった。今思えば、潜在意識の中で既に決めていたのだろう。
衝動は突然訪れるのではなく、それ以前のいつか、気が付かないうちにプログラミングされているのかもしれない。
2000年放送のドラマ『Beautiful Life 〜ふたりでいた日々〜』では、木村拓哉が乗って話題になった。
バイトを続けながら、苦労して中型免許を取得。同時にバイク探し。雑紙の中や自転車で行けるバイク屋を見て回った。
既に、頭の中では決まっていた。雑誌の中の三好礼子の言葉が背中を押した。バイク運転上達にはオフロード車がお薦め、と書いてあったから。
慣れ染め

一度覗きに行って気に入った、小さなバイク屋で買うことに決めていた。
バイク雑誌に書いてあったバイク購入に最初に必要な金額を封筒に入れて持参した。YAMAHAのTW、初期型。
ヤマハのティーダブが欲しいんですけど。
勇気を出して店に入ると、そう言った。歩きながら何度も頭の中で練習した言葉。
今、在庫無いから注文になるね。
店にいた常連らしき男性から、とっつぁんと呼ばれていた店主が言った。入りにくいショップが多い中、その店はこじんまりとして入りやすかった。
なにより、人柄のにじみ出る、とっつぁんの人懐こい笑顔が、緊張をほぐしてくれた。
それから1週間ほどして、ティーダブが入荷したと電話があった。
ヘルメットとジャケットをおまけに付けてくれると言われていたので、ジーパンとスニーカーで店へ向かった。グローブは、事前に店にあるものを購入済み。
免許取り立て若さのせいもあり、不安はさほど無かった。バイクと走り方の説明を聞くともなく聞き、ミコは走り出した。
顔に当たる風がとても気持ち良かった。家に真っすぐ帰る予定だったが、海へ続く道を東に向かった。
マコの驚く姿が思い浮かび、口角が上がった。
オフロード用フルヘルメットは、顔に風がたくさん当たる。
季節は3月。風はまだ冷たかった。
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