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第13章:彼女が友人の結婚式へもバイクで向かう、本当の理由

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私は、1枚の懐かしい写真を見ている。

23歳の時、友人の結婚式の2次会後に撮った集合写真だ。

写真の端に写る私は、白いTシャツ・ガエルネのオフロードブーツ、そして洗いざらしのジーパン。

ドレスやスーツで着飾った周りの人達からは、明らかに浮いている。

けれど、私は満面の笑みを浮かべている。




どう考えても、バイクで結婚式に行くのは常識はずれなおバカさんだ。

当時、バイクが楽しくてたまらなかったのは確かだ。

だけど、バイクで行く理由は他にあった。



一生懸命に満面の笑みを作っていた、あの頃の自分。

愛おしくて仕方ない。


著者プロフィール

名前:みどりのシカ

女性だけどバイクに魅せられた。20歳で初めて自転車に乗れるようになり、その2年後に中型二輪免許取得。きっかけは片岡義男「幸せは白いTシャツ」と三好礼子氏との出会い。

20代の頃、ほぼ毎日オートバイに乗っていました。遠くは四国、沖縄まで旅をしました。わけあってオートバイを手放してから、かなりの年月が経過。
けれど幸運なことに、いきなりバイク復帰しました。25年ぶりの相棒は、KAWASAKI 250TR。愛称をティーダと名付けました。ただいま、自分慣らし中です。




従姉の結婚式へバイクで向かう

従姉の結婚式へもバイクで向かう

22歳でバイクに巡り合った私は、当時バイク三昧の日々を送っていた。

その日の気分次第でツーリングに出掛けるのはもちろん、チョッとした買い物にもバイクが欠かせなかった。



ある日、隣県の母の実家で従姉の披露宴があった。

家族は車で向かったけど、私はどうしてもバイクで行きたかった。

着替えのスーツを積んで、片道160kmほどの下道を走って行った。

小雪舞い散る初冬だった。

鼻水が垂れ、指の感覚もマヒしていた。

寒いし疲れたしもう嫌だ、といういつものパターンを何度も繰り返し、やっとのことで従姉の家に着く。



寒がったでしょう

寒がったでしょう


美しく蛇行する豊かな川、最上川の支流を遡ったところにある小さな集落だ。

二桁国道で峠を二つ越えた先に、ひっそりとある。

バイクを軒先にとめ、玄関を開けると、母方の祖母が他のお客を差し置いて、私に一番に言った。

「寒がったでしょう、お風呂炊いであっさげのう、入ってこらい」




当時は薪を燃やして沸かすタイプのお風呂だった。

田舎のお風呂は湧水を使っていたから、浮遊物がたくさん含まれていた。

けれど、凍えた身体がジワジワと温められ、身体の芯からほどけていく感覚はたまらない。


生きていて良かったと感じられる。

けして大げさな話ではない、本当に心からそう思えるのだから。




そして、軒先に置いたバイクには、いつの間にか祖母が農作業用のカッパをかけてくれている。

私は何も頼んでいないし、祖母も何も言わないまま。



実家の母も、同じだった

実家の母も、いつもお風呂を沸かしてくれていた

私の実家でも同じだった。

私がバイクで出かけて帰ると、いつも母がお風呂を沸かしていた。

それも、午後早い時間から。

帰らない日もたくさんあったのに、たぶんいつもお風呂が沸いていたはずだ。

手間暇かけて沸かしてくれていたはずだ。

当時は余計なことを・・・とほんの少し思ったりもした。

が、今ならそれがどういうことなのか理解できる。



友人の結婚式へも、もちろんバイクで向かう

友人の結婚式へも、もちろんバイクで向かう

またある日、それは夏の始まりの頃だった。

中学校からの親友が結婚することになった。

結婚式は、相手の実家のある隣県で行うことになっていた。



その日も、私はレンタルドレスをバイクの荷台に積んで、峠を越えて走って行った。

親友の結婚相手は、私とバイクが出会うきっかけをくれたバイク乗りだ。

他の同級生や共通の親友たちは、もちろん自家用車や公共交通機関で式場へ向かった。


一生懸命な、満面の笑み

友人の結婚式の2次会で撮った集合写真

式の後の二次会終了後、女子友グループと親友カップルとで蔵王へ行った。

なぜ行ったのかは記憶にないけど、写真がちゃんと残っている。

簡単なドレスに着替えた親友と、お洒落した女子たちが並んだ写真。

一番右端に、私がいる。



定番の白いTシャツと、ガエルネのオフロードブーツ、そして洗いざらしのジーパン。

私は満面の笑みだ。


ただただバイクが好きで、そういう格好だった訳では無かった。

そうではない。


私には、何も無かった

私には、何も無かった

20代半ば、友人たちのほとんどがきちんと就職し、ある者は結婚し、早い者は母となっていた。

そのいずれにも属さないのが、私だった。

どんなに綺麗なドレスを着ても、化粧をきめても、抱え込んだ虚無感は隠せない。




フリーター、彼氏無し、将来の目的も夢も無し。

実家暮らしでも、自分の居場所に思えない。

無理やり人に誇れるものと言ったら、身長の高さと、バイクに乗れることくらいしかなかった。


ハレの場へ行くために自分を鼓舞するには、バイクに乗って行くしか他に道は無かったのだ。

私は、何者でもなかった。



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