PR

シーズン2第17章:土砂降りのパ・ド・ドゥ

シーズン2第17章:土砂降りのパ・ド・ドゥ バイク女子

その日、久しぶりの晴れの休日だった。

朝起きて、北へ行こう、そう決めた。

北の何処へ行こうか、まずは県道と国道を繋いで走ることだけを決めた。

借りているバイク置き場から北へ向かい、途中から西へ少し逸れる。

自宅から北方向には、まだお気に入りの道や場所を見つけていない。

かといって未踏の地という、ドキドキワクワクする感じでもない。

すでに何度か走っていて、これといった感動の記憶が無いのだ。

しかし、はたしてそうだろうか。



とうとう自分のバイクを所有して、乗りたい時に乗れるようになった 長年漠然と抱えてきた思いが、実現したのだ

シーズン2は、より遠くへ行くことよりも、無理なく少しずつ カッコつけではなく、ゆっくり確実丁寧に走ることを大切にしよう

みどりのシカ





土砂降りのパ・ド・ドゥ (Pas de deux)


こうして、具体的な目的地を決めずに走ることが、やっとできるようになった。

これまでは、温泉、ラーメン屋、カフェ、道の駅など、決めてから出かけないと不安だった。

久しぶりに走った3桁国道には、毎回感動してバイクを歩道に乗り入れ、写真を撮るほどの大好きな風景があったことを、私は記憶の中に特別に留めていなかった。いつも、目的地ではなく通過点に過ぎなかったからだろうか。



七ツ森。

小さめの、それぞれに個性のある山々が横一列に並んで見える場所。

手前には田園風景。

そういえば、そうだったと、走りながら思い出す。




3桁とはいえ、交通量がそれなりにある交差点のあたり。

童話に出てきそうなその山々には、実際に昔話として語り継がれている物語がある。

朝比奈三郎という巨人がつくったという。

やはり、写真に収めておくべく、交差点の手前で歩道に乗り入れる。



どこへ向かおうか

どこへ向かおうか

さて、ここからどこへ向かおうか。

とりあえず、さらに北へ向かう。七ツ森の文字を見て曲がってみた。



そこには素敵な風景があった。

田んぼの中、可愛らしい木の下に小さな赤い鳥居。

写真に収めて、また北へ向かう。



いっそのこと鳴子へ行こうか。

大好きな潟沼へ、今年はまだ行っていない。

その時々で色を変える、一周徒歩で30分ほどの酸性湖。

ターコイズブルーが一番印象的。

ほとりには、お気に入りのレストハウスがある。

そこで、潟沼ラーメンを食べてこよう。




雨雲に追いかけられて

雨雲に追いかけられて

バイク復帰して1年数ヶ月経過。これまでは、日帰りツーリングの距離は100キロを基準としていた。

鳴子往復はそれを遥かに超えるだろう。

良質な温泉のある場所だから、日帰りするのはもったいない場所でもあるのだが。



しかし、私は気づいた。

前方には重いグレーの空が広がっている。

遠くのかすんだ部分では多分雨が降っているのだろう。



北へ進むほどに、あたりが薄暗くなってくる。

まだ、午前9時前だ。

まるで、夕暮れ時。



先へ進む前に天気予報を確認しよう。

カッパも持参していないし、濡れてまで行く必要はないのだから。


思案

思案

路肩にバイクをとめ、スマホを取り出した瞬間に大粒の雨が降り出した。

天気予報は、これからかなりまとまった雨が降ると知らせている。

荷物もウエストバッグもそのままに、急いで元来た道へUターンだ。

あっという間に雨雲は私の位置を越え、すぐに土砂降り。

ジーンズに雨がしみてきた。

南の方向は、まだ明るい。

そこまで行けば何とかなるだろう。

先を急ぐ。




土砂降り

土砂降り

走っても走っても、雨はさらに強く降り、気づくとスピードメーターは80キロを表示していた。

慌ててアクセルを緩める。

普段の私は、制限速度ギリギリ、せいぜいプラス10キロ以下で走行するのを好んでいる。

すでにずぶ濡れなのに、早く雲の切れ間に行こうと、足掻いて焦る気持ちがアクセルを開けさせる。

しかし、焦っても急いでも雲は私を追い抜いていく。

雨はますます強く降る。


もう諦めるか、あるいは今さら雨宿りするか。

いや、このまま走り続けよう。

ポケットの中もリアシートのバッグもそのまま。

天気予報によると、雨は1時間は降り続くはずだ。

やっと、仙台へ一直線に向かう国道4号線に出た。

あとはひたすら南下するだけだ。

雨も小降りになり、一時的に雨雲を追い越した。

仙台の天気予報は、曇りのはずだった。

しかし、また降り出したかと思うと同時に土砂降りだ。



土砂降りのパ・ド・ドゥ(Pas de deux)

いつの間にか、2車線めに1台のオートバイがいた。

控えめな存在感を放っていた。土砂降りの中を、淡々と走り続ける。


濡れているようにすら見えない。

もう、先に行っただろうと思っていると、右車線から追い抜いて行く。




ふと、過去の沖縄での出来事を思い出した。

土砂降りの中を、現地で出会った旅人と2台で走った思い出。

しばらく斜め前、後ろ、横と位置を変えながら、2台のオートバイは仙台市を通り過ぎる。

息の合ったステップのようだ。

雨雲を越えたらしく、晴れ間が出てきた。

ジーンズも、お尻のあたりを残して乾きつつある。



だけど、私はまだ走り足りない。

名取市に入ったあたりで、国道から東へ進路を変えた。快適な復興道路を南下する。

海岸の温泉に入り、近くでラーメンを食べよう。

気温は30℃まで上がる予報だが、身体が冷えている。

しかし、前方はまたしても怪しいグレーの空。



路肩で天気予報を確認する。

再び、雨がやってくるらしい。

しかも、1時間後には街なかもずっと雨だ。

またしてもUターンすることに決めた。

温泉もラーメンも諦めた。



このまま自宅に帰るなら、まあ、また濡れてもいい。

だけど、バイク置き場にバイクをとめ、そこから歩いて自転車置き場へ。

さらに自転車で自宅へ向かうことを考えると、もうずぶ濡れにはなりたくなかった。

はたして、濡れずに自宅へ帰ることができた。



土砂降りも悪くない

土砂降りも悪くない

走行距離は160キロを超えた。

ただただ北へ南へと走り続けたツーリング。

土砂降りに濡れながら、雨雲から逃げ続けただけのツーリング。




それもまた格別だった。

100キロの壁を越えた気がした。

まだまだ走れる。

たぶん200キロは、普通に走れそうだ。

ついでに、雨中の走行にもほぼ慣れた。




併せて読みたい

タイトルとURLをコピーしました