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第16章:一枚の写真とカタクリの花【国道457号線~宮城県道51号】

一枚の写真とカタクリの花 バイク女子

バイク女子現役だったころ、早春になると走りに行く道があった。

もしかしたら、今もカタクリの花が咲いているかもしれない。


一枚の写真とカタクリの花【国道457号線~宮城県道51号】

一枚の写真とカタクリの花【宮城県道51号・蔵王七ヶ宿線】

その道は、遠刈田温泉から国道457号線を南下し、宮城県道51号線(南蔵王七ヶ宿線)へ逸れて七ヶ宿へ至る。

蔵王連峰の中腹を並行に走る、緩やかなワインディングロードだ。

この道は、私が大好きな道のひとつだ。

  • 国道457号線は、岩手県一関市から宮城県白石市に至る、総延長184.7 kmの、思いのほか長い一般国道
  • 宮城県道51号線(南蔵王七ヶ宿線)は、宮城県白石市と刈田郡七ヶ宿町を結ぶ、実延長19.826kmの主要地方道



カタクリの花【国道457号線~宮城県道51号】

カタクリの花【宮城県道51号・蔵王七ヶ宿線】

遠い記憶の中では、道路の両側には草原が広がっていたり、蔵王山が雄々しく見えていたり、白樺か何かの林が広がっていたりする。走りやすい、気持ちのいい道だ。

あの頃の私は、走り過ぎる瞬間、林の中が一面紫色に染まっているのを見た。

気になって戻ってみると、一面に花が咲いていた。それがカタクリの花の群生だと知ってから、毎年のように思い出して走りに行くことになった。


記憶のままに

記憶のままに


その思い出の道を、先日35年ぶりくらいで走ってきた。

その場所がどのあたりだったのか、記憶にも記録にも残っていない。毎年、わからないまま探しに行くのだ。ましてや季節違いのいま、その場所を見つけるのは非常に困難だ。

しかし、それどころか、私の記憶の中にあった緩やかな美しいワインディングロードすらみつけられなかった。


見当をつけて慎重に走っていたつもりが、いつの間にかタイトなコーナーとアップダウンを繰り返す、山の中の狭い道を走っていた。そして、そのまま白石の街へ降りてしまった。

本当なら快適に高原を走り通して、ダムのある七ヶ宿へ抜けるはずなのだが。どこかで道を間違えてしまったらしい。あるいは、記憶が間違っているのか。

ナビを使わず、地図もまともに見ず、標識と勘を頼りに走っていた。当時も今もそんなに違いは無いはずなのだが。何しろ30年~40年も昔の記憶だから、道そのものや風景が変わってしまったのかもしれない。

そういえば、先日走っていて、目を疑うような風景を見た。メガソーラーだろうか、やわらかい稜線の小山がすべてソーラーパネルのようなもので覆われていた。

緑の草原が、そんなふうに変わってしまったのだ。


記憶の中の景色はもう無くなってしまったのだろうか?

けれど、あのカタクリの花の群生は、今も人知れず紫色の花を咲かせ続けていると信じたい。


1枚の写真【国道457号線~宮城県道51号】

1枚の写真【宮城県道51号・蔵王七ヶ宿線】


あの頃、その美しい道のどこか、白樺林の前にバイクをとめて、私は写真を撮っていた。

その時、対向車線に一台のバイクがとまった。

エンジンを切って、こちらへ歩いてきたのは自分と同年代くらいの女性だった。どこから来たのか、どこへ向かうのか、お互いのバイクについてなど、ライダーの挨拶を交わした。



2人とも写真が趣味だと知り、お互いの写真を撮り合って、連絡先を交換した。

後日、それぞれがフィルムから現像した写真をフォトカードにして、写真に写っている相手に送った。



あの時、ホンダ乗りの彼女が私に言った。

「カッコいいですね!」

調子に乗った私は、めったに見せない素敵な笑顔で写真に写っていた。

一枚のモノクロームの写真は、それからずっと私の宝物になった。

だけど、繰り返す引っ越しのたびに、どこに仕舞いこんだかわからなくなる。今でも、すぐに見つけることができない。

彼女の写真は、何年か前にSNSに投稿したくなって、どうにか探し出して画像として保存してある。私が写っているフォトカードも、幸いなことに保存されている。


バイク乗り

バイク乗り

バイク乗りの出会いは、ほんのつかの間だ。連絡先を交換しても、ずっと付き合いが続くわけではない。

だけど、たった一枚の写真と、その時の情景はいつまでも心の中に残り続けている。

あの薄紫色のカタクリの花の群生も、彼女との出会いも、地図の上で思い出の道をたどるだけで鮮明に思い出される。



そんな出会いや風景を、バイク乗りたちはたくさん心の奥に仕舞ってあるはずだ。

人生が終わる頃、きっとそれらの情景が走馬灯のようによみがえることだろう。

まだそんな思い出がまったく無いと言うのなら、まだまだ走り足りない。



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