20代の頃、毎年春になると雪解けを待ってオートバイで走りに行く道があった。
その道は、もしかしたら今までの人生で一番好きな道かもしれない。
それは仙台市と山形市を結ぶ、国道48号線だ。
山形県側は関山街道、宮城県側は作並街道と呼ばれる、総延長76.2 kmの国道。
この道の上に、私は思い出を幾つも残している。
国道48号線、なぜか記憶に残らない
国道48号線は、宮城県仙台市と山形県山形市を結ぶ2ケタ国道。
宮城県と山形県の間の奥羽山脈を、国道48号線は長いトンネルで貫いている。
関山トンネルだ。
そして、関山トンネルの前後は、川に沿った渓谷沿に緩やかなカーブが続く。
今も昔も、私のお気に入りの道路。
国道48号線、関山トンネル
トンネルの真ん中あたりに、宮城県と山形県の県境がある。
このトンネルのおかげで国道48号線は、冬季閉鎖の無い、かつ無料で通行できる唯一の道路になっている。
かつては、お化けが出ると有名だったトンネルだった。
しかし旧関山トンネルは閉鎖され、新しくなってからはトラックなどの交通量も多く、そんな噂も薄れた。
国道48号線、見どころ盛りだくさん
仙台西道路ができるまでは、大崎八幡神社の前を通る県道31号線、通称仙台村田線を通って、作並へ向かっていたはずだ。現在は最短ルートで愛子方面へ抜ける西道路を経由する。
西道路を抜けて愛子を過ぎるあたりから、片側一車線のローカルな雰囲気の道となる。そのルート沿いには見どころや、名所が意外にもたくさんある。
大倉ダムを経て三角油揚げで有名な定義如来、鳳鳴四十八滝、ニッカ仙台工場、ゴリラ山、奥新川、作並温泉、関山大滝、東根の果樹園、産直市場、天童温泉等々。
全行程を通じ、見どころが盛りだくさんだ。
国道48号線、なぜか記憶に残らない
しかし、不思議なことに、それほど強い印象の残る道というわけではない。
つい先日、親友の墓参りに共通の友人の車で山形まで行った。大滝ドライブインに立ち寄ろうという話になったのだが、そこが関山トンネルの前なのか後なのかが2人とも思い出せない。
つまりは、そこが宮城県なのか山形県なのかも知らないことに、今さらながら気がついたのだ。
私は、母方の生家の庄内地方に墓参に行くため、物心つく以前から国道48号線を父の運転で毎年通っていた。
20代でバイクに乗り始めた以降も、何度も何度もその道を走ったはずだ。なぜならば、大好きな親友たちが山形県にいるからだ。
宮城県側は広瀬川の蛇行に沿って、山形県側は乱川に沿って道は美しく曲がりくねって続いている。ふと横を見ると澄んだ清流が蛇行している様子が見られる。
道の両側には豊かな緑に覆われた、優しい稜線の山々が続いている。新緑も美しいし、紅葉の季節はため息が出るほど素晴らしい。どの季節に走っても、こんなに美しい道だったのかと改めて思い知らされる。
なぜか記憶に残らない。
何度も通っている美しい道なのに、なぜか記憶に残らない。
何故なのだろう?
たぶん、消化が良いのだろう。
濃すぎる料理や美しすぎる景色は、一生記憶に刻まれる反面、何度も食べたい・行きたいと思えなくなることもある。
その逆で、その場で感動して、時間と共に記憶が薄れていく。そしてまた通るたびに、新しい感動をおぼえる。言ってしまえば、心地よくほどほどな美しさなのだろう。毎日食べても飽きない美味しい米のようなものか。
国道48号線、トンネルを抜けると花の香りがした
国道48号線は、走るたびに違う顔を見せてくれる。
バイクは体全体で風景を感じる乗り物だから、その感動もひとしおだ。
20代の夢中でバイクに乗っていた頃も、噛みしめて乗るようになった今も、その感動は変わらない。
満開の花
私の親友の実家は山形県天童にある。
20代の頃、フリーターだった私は、春になるのを心待ちにしていた。雪解けのニュースを見ると、簡単な着替えをリュックに詰めて、バイクで関山峠を越えていく。
道に沿って続く渓流をチラと見下ろすと、勢いよく雪解け水が流れているのが見える。川の勢いのように、友人に会えるのが楽しみで仕方がない。
関山トンネルを抜けると山形県だ。
宮城県側とは天気が異なることも多い。
そして、明らかに風が変わったことに気がつく。
トンネルを抜けると同時に、花の香りがするのだ。
関山峠を下って行くと、東根市の果樹園が広がっている。
りんご、もも、ラ・フランス等々、いずれかの果樹の花が満開になっている。
果樹園の続く道を更に進み、国道13号線を横切って行くと天童温泉がある。大好きな親友の住む街だ。
いつも一泊だけさせてもらう予定で行くのだが、ご両親の好意に甘えて3泊も4泊もいてしまう。昼頃まで寝て起きて親友とどこかへ出かけたり、親友が仕事に行っている間は一人寝て過ごしたりした。
居心地の悪さを覚えていた実家より、ずっと寛げるお気に入りの居場所だった。プロフィール写真の場所が、その親友の家だ。
墓参り
山形県にはもう一人の親友が住んでいた。今は亡き、45年来の友だ。彼女は早くに結婚して、ご主人の故郷である山形で暮らしていた。
私がバイクに乗るきっかけをくれたのがその彼だ。
彼らがまだ仙台の大学に通う恋人同志だった頃、2人の車に無理やり便乗して、日本海へ夕陽を見に行こうと言った。国道48号線から47号線を経て酒田へ抜けた。
あの日、笑いながら国道48号線を走ったのは、昨日のことのようだ。
しかし、今は同じ道を彼女の墓参りのために通っている。
何度走っても飽きない道。
何度走っても記憶にはっきり残らない道。
走るたびに新しい感動を得られる道。
それが国道48号線、わたしの大好きな道だ。
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