エミコの実家は広大な田園が広がる県北の米農家だ。家の近くには東の山から流れてくる清流の小川が、広大な田園を潤して、遥か海まで流れていく。
そのことを教えてくれたのは、おばあちゃんだ。エミコはおばあちゃん子で、小さい頃からいつも一緒に田んぼへ行っていた。
何が楽しみって、田んぼの真ん中にぽつんとある田の神さまの木の下で、お昼ご飯を食べること。

著者:あおいしか
12/11不思議の国ニッポンに生まれ、平和ボケして何となく生きてきて、バイク復帰も運命で決められていたとしか思えない今日この頃。
愛車のナンバーは3830。わかる人にはわかる数字。これからも平和ボケで生きていきたいです。
エミコがセローに乗って知ったこと

おばあちゃんが漬けた梅干しの入ったおむすびと、海のおじさんが持ってきてくれた塩鮭が入ったおむすびを食べることが、とても楽しみだった。
それはそれはとても美味しかった。おばあちゃんとおじいちゃんが作ったお米は、何よりも美味しかった。太陽の光がお米に反射して、キラキラ輝くのを見るのも好きだった。
両親は、それぞれ街の役所と商店に勤めていた。農家を継ぐ気持ちは無さそうだ。
素直に育った、田んぼとお米が大好きなエミコは、実家を離れようと思うことはなかった。地元の中学を卒業すると、ちょっと離れた場所の農業高校へ通うことにした。ひそかに心の中で米農家を継ぐ決心をしていたのだ。
セローとの出会い

1年間は、夜明け前に起きてバスと電車で通学した。高校2年生になってすぐ、16歳になると2輪教習に通った。バスの便が減り、電車も待ち時間が長いと話したら、バイク乗りの友人がバイクを勧めてくれたのだ。
教習は毎回泣きそうになるほど辛かったけど、バイクに慣れるほどにどんどん楽しくなっていった。
卒検前に、友達の行きつけのバイクショップに行った。卒検に合格したら、すぐに乗り始めるためのバイク選びだ。子供の頃から田んぼを手伝ったお駄賃や、おじさん達から貰ったお年玉を貯めていた貯金がけっこう貯まっていた。
エミコの性格とライフスタイルをよく知る友達と、バイクショップのお兄さんのお勧めは一致。
田んぼや畑大好き、マイペースなエミコには、YAMAHAのセローしかないとイチオシされた。
セローはオフロード車だが、林道もロングツーリングも難なくこなす。軽い車体でパワーもあって、しかも乗りやすい。車高は高めだが、長身のエミコにはまったく問題なし。
その年、大人気ロングセラーでありながら、セロー生産終了が決まっていた。エミコは、ファイナルバージョンのグリーンと白のセローを選んだ。田んぼや山と同じ緑色。
湧き水は森を潤し、田んぼを満たし海を育む

毎日通学しながら立ち転けやエンストなどなど、小さな失敗を繰り返し、エミコはどんどんバイクに慣れていった。
夏休みに入ると、小川の流れをたどって山へ向かった。川の水の豊かさ、美しさをあらためて知った。
また反対に、田んぼの水路に沿って東に向かい、大きな川に出てさらに東へ走り、海へ出た。
ふーん、お山の水って凄いなあ。
エミコは、そんなことを考えながら、森の中の切り株や、堤防、防潮堤に座って、持参したおむすびを食べるのだ。
チョロチョロとお山から流れ出た水が、森を潤し、田んぼのお米や畑の作物を育て、栄誉たっぷりになった川は海を豊かにして海産物を育む。
ツーリング途中で立ち寄った道の駅で見つけた、一冊の本。三陸の牡蠣漁師さんがその本の中で、そう書いていた。
エミコは、その本を書いた牡蠣漁師さんの浜へ時々立ち寄るようになった。牡蠣の美味しいシーズンには、殻付きの牡蠣を買って帰った。
特に牡蠣が美味しいシーズンは、1月から2月。鼻水を垂らしながら、エミコはバイクを走らせる。祖父母と両親が、美味しい牡蠣を楽しみにしているからだ。
エミコは、何度か浜に通うたびに、浜の近くのY字路の一方が少し先で行き止まりになっていることが気になっていた。
桜の季節、また牡蠣の浜になんとなく行ってみた。行き止まりの道を見下ろすと、可愛らしい桜の木が1本。ピンク色に染まっていた。
エミコはトンネルの手前でUターンして、行き止まりの道へ曲がった。桜の木の周りには、水仙もきれいに咲きほこっていた。
近づいていくと、桜の木のそばに小さなお堂がポツンとあった。寂しい場所だけど、花壇もお堂の周りも丁寧に管理されているようだ。
お堂にかけられた木の札には、瀬織津姫神社と書いてある。スマホで調べたら、セオリツヒメと読むようだ。神道の「大祓詞(おおはらえのことば)」に登場する、罪や穢れを川から海へ流す水の女神・祓戸四神(はらえどよんしん)の筆頭と説明されている。そして、隠された謎を秘めた神さまだとも書いてある。
神社へは地元のお祭りの時しか行かずに育った、無神教のエミコには、ちんぷんかんぷんだ。
でも、お姫さまの神さまの小さな神社の、なんて可愛らしいことか。
桜の木の下で

エミコはそれ以後、気仙沼のその牡蠣の浜へ行くたびに、小さな神社に立ち寄って、傍らでお昼ご飯を食べてくるようになった。
おばあちゃんが早起きして、一生懸命育てたお米で握ってくれた、おむすびだ。あと、神社のことを話してから、何故かおじいちゃんがお酒の小瓶を持たせてくれる。
瓶の蓋を開けてお供えして、拝んだら持って帰るんだぞ、と教えてくれた。家に帰ると、おじいちゃんは、私が買ってきた海産物をつまみに、そのお酒を飲む。
ありがたい、ありがたいと言いながら、それはもう美味しそうに飲むのだ。私はそのおじいちゃんの様子を見るのが大好きだ。
おばあちゃんも、ちびちび盃のお酒を舐めながら、嬉しそうにしている。
そろそろ、また田植えの季節が始まる。学校が休みの日には、もちろん田んぼの仕事を手伝う予定だ。
参考:「森は海の恋人」畠山重篤
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